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始末の困る人でなければ難局は乗り切れない。始末の困る人とは、命もいらぬ、名誉もいらぬ、官位や肩書きも、金もいらぬという人のことだ。このような者にしか、困難を共にして国家の命運を分けるような大仕事を、一緒に成し遂げることはできない。
西郷南州遺訓のあの有名な三十条にある教えである。
男で、あえて漢と書こう、漢でこの教えに痺れない日本人はいないのではあるまいか。
私もその一人だ。
腕っぷしと地頭だけが自慢で、行動自体は確率的に“行けるか行けないか”算盤ばかりはじいて生きていた勇気などまるで持ち合わせていなかった私が、ガツンとこの教えに出会ってしまったのである。
それはまさしく十字架だった。
睡眠時間を削って仕事をし、事情もよく分かっていない者からの評価なぞなんにも気にせず、これといった名誉職にも就かず、年収もそんなに必要としていないのは、西郷南州遺訓の三十条のせい? おかげなのである。
他者は私を世間知らずの正義感の塊と呼んだり、損ばかりしている暴れん坊だと陰口を叩いたりしているが、元来気の弱い男が、西郷南州遺訓三十条という十字架を背負った漢になってしまっただけのことなのである。