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昔の話だが、うちの社員が信じられないようなことをして、というより、信じられないことにやるべきことをしなくて、起こしたトラブルがうちのトラブルの大半だった。
お客様からも仕入先様からもアラームをかけていただいていたにも関わらず、うちの社員がなにもしなくて、具体的に言うと、例えば仕入先様に発注していなくて、納期遅延を起こすなどしていた。
当然、上司は彼を叱るのだが、それがパワハラだとか言われ始めた頃の、これは昔話だ。
当時はこのようなトラブルが年に二回は起きていた。
そのたびに私たちは、昼はそのトラブルを収束させるために奔走し、夜は遅くまでお客様に提出する予防対策書の作成に頭を痛めた。
普通当たり前にするだろ的なことを信じられないことにしなかったことによるトラブルの予防対策書など、まるで書きようがないのだった。
ひとりの社員のせいで、トラブルでご迷惑をかけているお客様に、うちの会社がアホ扱いされるのが情けなくて悔しくて、ほかの社員には申し訳なくてたまらなかった。
こういう苦しい経験を経て、このようなトラブルが起きない体制を模索した結果、いまの私たちがある。
このようなトラブルが起きないようになったのは、いわゆる社内教育のおかげではなかった。
教育は、百メートルを二十秒でしか走れないひとに十秒台で走る特訓をするのと同じだということに、二十年くらいかけてやっと気づいたのである。
『社員には苦手なことをさせない』
この単純極まりない決意に、私たちは二十年という歳月をかけて遂に至ったのである。